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ICTでメンテ◇気軽に使えて効果大

 地球1周の距離は約4万km、地球と月の距離は約39万km。では、日本にある道路をすべて合わせるとどれくらいあるか知っているだろうか――。答えはおよそ120万km。そしてその多くを市町村が管理している。これだけの道路を定期的に点検することは、少子高齢化で技術者が不足しているなかで、大きな負担といわざるを得ない。が、メンテナンス時代の今、避けては通ることはできない。そこで期待されるのが、ICTの活用だ。

◇AIで道路の損傷を判定

 道路舗装工事大手の福田道路(新潟市)が展開しているのが、AIにより素早く舗装道路の点検ができるシステム「マルチファインアイ」。NECと共同で開発し、2017年にサービスを開始。以来、新潟や青森、埼玉などで調査を実施している。国土交通省四国地方整備局が実施した「路面性状を簡易に把握可能な技術」に参加し、公表された16技術のうちの一つにも選ばれた。
 特長は、走行する車から撮影した路面の映像をAIで解析することで、熟練の技術者や専門技術者に頼らず、ひび割れやわだち掘れの調査を短期間でできることだ。
 一般的なビデオカメラを車に取り付けるだけでよく、速度も時速70km以下なら調査に支障はない。一般的に、1車線で1kmの長さの道路を目視点検する場合、3人ほどの作業員で半日前後かかるが、「マルチファインアイ」なら2人で数十分程度で済む。「素早く調査できるため、一度に長い距離も調査できる。また、技術者が目視で行う場合は交通規制をする必要があるが、このシステムなら必要ない」と、福田道路技術研究所の田口仁所長は説明する。

◆ディープラーニングで精度は「目視の9割ほど」

 AIの精度は目視の9割ほど。この高い精度を実現するため、NECのAI技術群「NEC the WISE」の一つである、ディープラーニング技術を使っている。コンピューター自身が学習を深めるもので、福田道路ではAIに学習させるため、実際の道路のひび割れやわだち掘れ箇所の画像約6万枚を集めた。

◇コストは1km当たり9000円

 コストの低さも注目に値する。福田道路によると、目視による点検は1km当たり5万円、測定車による点検では3万円程度かかるというが、同システムなら1km当たり9000円だ。
 さらに、GPSによって地図データと同期しているため、専用の閲覧アプリを使えば地図と撮影時の動画、損傷度合いを示すグラフを1画面で表示でき、修繕計画の策定ツールとしても利用できる。
 人と時間、費用を掛けずに行える同システムはサービス開始以来注目を集めており、全国から問い合わせを受けているが、加えて「工事の基礎資料として使う例も出ている」と田口所長はいう。「100kmなどの長い距離の調査業務ではなく、2kmや5kmほどの距離で舗装工事の際に調査してほしいという依頼があった。事前の計画調査的な使い方で、交通量の多い路線の舗装工事の際に素早く調査することができる。こうした利用にも応えていきたい」

◇橋梁点検をタブレットで

 市町村にとって負担となっているのは橋梁も同じだ。県内の橋梁2万2000橋のうち、実に8割弱が市町村管理。膨大な数の点検を定期的にしていくにはそれだけの人材あるいは費用が必要で、全国的な課題となっている。これを既存技術の応用で解決しようというのが、長岡工業高等専門学校(新潟県)の井林康教授が開発した「自治体向けタブレット橋梁概略点検システム」だ。
 文字どおりタブレット(iPad)で起動し、橋梁の点検、記録、書式化を同時に行う。現況を目視しながら画面の指示に従って部材の損傷度合いを順番に入力、ひび割れなどがあればそのつど内臓のカメラで撮影。入力データは自動で国土交通省の書式に変換され、記録整理と書類作成の必要がない。

◇膨大な数をサクサクこなす

 井林教授によると、ターゲットは市町村管理の小規模橋梁。橋長5m前後で重要度の低いコンクリート橋を想定する。「数多あるこれらの点検をサクサクこなしていくことに重点を置いた」というシステムは、サーバーにつながず単独で使用。1橋完結型の、いわば『電卓』のようなイメージだ。「UAVやAIに比べるとローテクだが格安。棲み分けて使えば十分効果的」
 小規模橋梁であっても、法定点検は1橋あたりおおむね1時間はかかるという。持ち帰って結果と写真を整理するのにさらに1~2時間。これに対し同システムは点検時間を10~15分に短縮し、かつ、あと処理の手間をほぼゼロにする。
 そのうえ点検の難易度が下がるため、行政職員の直営が容易に。また地元の事業体と道路の包括的維持管理契約を結んでいる自治体は業務メニューに定期点検を追加し、委託先にタブレットを貸与するなどして日常的に見まわることもできる。効率化・省力化による経費削減効果は大きい。

◇コスト8割削減を実現

 同システムは昨年度、新潟市が導入して約400橋で活用。結果、外注委託費の削減分などによりトータル80%のコストダウンを見込めることがわかった。来年度からは三条市が導入する予定で、愛知県・山口県・大阪府の市町村からも要望がある。
 「点検の敷居が下がれば専門の建設コンサルタントでなくとも業務が可能。そこで行政職員や地元建設会社が自分たちの地域をまめに点検し、常に状況を把握できれば、それ自体に価値がある」と井林教授。自治体から希望があれば、システムを当分の間、無償で貸し出している。
 「田園地帯で交通量の少ない小規模橋梁であっても点検は必須、手間と費用はばかにならない。ならば、それらはサクサクこなしてしまう。そして圧縮できたコストはより重要な橋梁や修繕・改築にまわす。そうした流れを構築していくところに、このシステムのねらいがあります」[新建新聞2月5日号抜粋]

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